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2010年5月27日 (木)

Gペンはどこから来たの

 「GペンのGって何?」

こんな素朴な疑問を、ときどき見かけます。

趣味、仕事でイラストや漫画を描いている人たちに
Gペンは広く使われています。
メーカーの違いや使い方のコツについても、
漫画技法書や、漫画制作のサイトでは詳しく解説されています。

それなのに。
こんなに有名な文房具の由来が、万年筆などに比べて
よくわからない、というのも不思議な感じがします。

Wikipediaによると、由来はこう。

「Gペンの「G」に関して、
「昔はAペンからZペンまで作られていて、良質なGペンだけが今も使われている」
という噂もあるが、それが真実かどうかは定かでない。」

ほかに、「ゼブラによれば……
切り込みの形がGに見えるから」という説明も見かけます。

さて、前回の記事にも書きましたが、「Jペン」というペン先があります。
他のアルファベットの刻印のペン先も、あるわけです。
ちょっと頑張ってネット上を探してみれば、
「B」「U」などが刻印された鋼ペン先の、写真や画像が見つかるはずです。


「AペンからZペンまで作られていて、良質なGペンだけが今も使われている」

この説の元になっているのは、1956年、
福井工業(現 ライオン事務器)の発行する「ライオンタイムス」誌面での、
当時の社長・福井正太郎氏(五代目福井庄次郎氏)による説明だと思われます。

この79号・号外では、ペン先の歴史から当時の課題まで、
6ページに渡ってびっしりと語られた素晴らしい資料なのですが、
その中に次の記述があります。

「……最初型を区別するためにいかなるマークを付けるべきかについて考え、
A、B、Cの順序で作って行き、AからZまで順番にやっていた。
そのうち、売行のよい物また、輸出等の方面でその国の文字の書き具合に
必適したものが残っていったわけである。

 我が国にも昔、STW等のマークの品も輸入された。
Wは図柄の如く三ツに先が刻まれておって柔らかく書けた。
そのうちG印が日本文字に適すると見えて引き続いて輸入された。
Gにはgilt金色grey鉄色があった。ミッチェルが高級で
ブランダーヒンクスという順序であった。……」

(明治34年の福井商店(現 ライオン事務器)のカタログには
輸入ペン先の中に、たしかにJペン、Bペン、Gペン、Tペン、Wペンがあるのです。
ただ、この時のカタログには図像がついていませんでしたから、
Wペンがどんな形であったのか、わかりません。)

このライオンタイムスの記事は、
日本鋼ペン先工業組合が1994年に編集、発行した
『ペン先のあゆみ』にも紹介されています。
これは一般書籍というより業界向けの記念誌のようなものでしたが、
鋼ペン先の歴史を知る上では最も重要な1冊といえる、優れた文献です。

15~6年前、この本はおそらく当時の文具・コミック画材のメーカー関係者に渡り、
Gペンに関する記述が、関係者の記憶に残って、
Wikipediaの記述に反映されたのかも知れません。

さて、この本『ペン先のあゆみ』によれば
日本鋼ペン先工業組合は1994年に解散し、
ゼブラとタチカワの2社で新たに「日本鋼ペン先懇談会」をつくります。

この「懇談会」が数年後に発行した
『バーミンガムの鋼ペン先』という文献があります。
「ペン先のあゆみ」の編集委員でもあった神永正治郎氏が、
国内の次は元祖・英国バーミンガムの鋼ペン先の歴史に心惹かれ、まとめた本です。

内容は、英国で見つけた当時の資料(英文)の転載と和訳が大半でしたが、
神永氏ご自身が書かれた
「Gペンの由来を探して」という文章が載っています。
ここで神永氏は、日本では誰も知らないGペン事情を述べています。

「……

 アウレリウス ブルース ミッチェル(AURELIUS BRUCE MITCHELL)社が
1843.3.22(江戸時代/天保14年)に既にその商標を使用していて、
1876.4.4バーミンガムの図書館に記載保存されていた資料が紹介されている。

 同社は同社鋼ペン先の胴部表面にAからWまでのシリーズで
アルファベットの浮彫刻の刻印をつけて発売していたが、
特にGの文字入りのペン先がA、Jその他の名入りのものより公表を博し
他社の競合、マーケティングの反響から次第にGペンが普及していった。

 ミッチェル社以外にもGのマークをつけて生産したメーカーもあり、
Gの文字は公知公認のものであり、ミッチェル社の単独の商標とは
見倣していなかったのではないかと推測される。
但し浮き彫り式の独特な絞り文字の使用については依然問題視された。
又、Gの文字の採用について他者はギリシャのGをとってペン先に
つけたという主張もあった。何れにしてもBの文字、Jの文字、
Aの文字のペン先がメーカーで生産されていたのは事実であり
カタログにも掲載されているところである。

 以下、類似品防止又は抗議の意味の”警告”の文面が
商品の包装画、ラベル、チラシ等に表示されていった。

………」(前後の文章は省略)

 この文章の前後のページには、ミッチェル社をはじめ各社の鋼ペン先の
商標登録、パッケージ、警告の文面やパクリ謝罪文など、興味深い資料が
たくさん掲載されていました。

 以上の資料から、Gペンとは「Aペン」から続くアルファベットのシリーズの
ひとつだったことは間違いありません。
ただ、Wペンがその字の如くWの形をしていたように、
耳の切り欠きの形から「G」を割り当てた可能性も、ないとは言えない…かな~。
という気もします。

 日本では、仮に漫画文化がこれほどプロ・アマの間で普及しなかったとしたら、
鋼ペン先はとっくに姿を消していたでしょうね。
ルンドペンなどの製図用ペン先も細々と製造販売されてはいますが、
Gペン、丸ペンを含む鋼ペン先製造の大枠があってこそ、続いているのだと思います。

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